| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-279 (Poster presentation)

海水温の変動がマイワシの産卵場形成に与える影響

古市 生*・安田 十也・黒田 啓行・依田 真里・福若 雅章(水研センター・西海区水研)

マイワシは、日本周辺に広く分布し、重要な漁業資源となっている。本種の資源量(個体数)および分布域は、著しく変動することが知られている。その著しい変化は、気候変動に起因すると考えられているが、気候変動が本種の資源量や分布域の変化を引き起こす具体的なメカニズムについては、不明な点が多く残されている。

分布域や資源量に影響する生物的な要因のひとつに、産卵場の形成があげられる。産卵場所や時期は、卵・稚仔魚の海流等による輸送経路と関係し、その後の分散や生存率に多大な影響を与える。マイワシにおいて、産卵場所や時期は、年により変動していることが知られており、海水温変動との関連の可能性も指摘されている。海水温の変動が産卵場形成に与える影響を明らかにすることで、気候変動が資源量や分布域の劇的な変化を引き起こすメカニズムの理解につながるかもしれない。

本研究では、対馬暖流域(日本海・東シナ海)における1982~2013年の32年間にわたる卵稚仔調査(全国的に行われているプランクトンネットの鉛直曳きによる卵・稚仔魚の採集調査)のデータを用い、海水温とマイワシ卵の出現分布・時期の関係を解析した。

解析の結果、対馬暖流域の海水温が低い傾向にある年は、山口~九州西岸で卵の出現頻度が増加し、海水温が高い傾向にある年は、隠岐諸島付近の鳥取・島根沿岸、石川~秋田沿岸で卵の出現頻度が増加していた。卵出現時期のピークは、海水温の傾向が低くになるにつれ、九州西岸では3月から4月に遅れていた。本州沿岸でもわずかに遅れる傾向はあったが、大きな変化は見られなかった。以上の結果は、マイワシの産卵場は海洋環境が寒冷なときほど西偏し、九州西岸では産卵時期が遅れることを示唆している。本講演では、以上のような産卵場の形成場所や時期の変化が、マイワシの分布域や資源量に与える影響についても議論したい。


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