| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-298 (Poster presentation)

サクラマスの生活史分岐に対する遺伝性:ヤマメの子はヤマメ?

*山本俊昭(日獣大), 北西滋(岐阜大)

サケ科魚類では同一種内に大きく異なる二つの生活史が存在する。ひとつは、河川で成長したのちに海を回遊し再び生まれた河川に戻ってくる降海型、もうひとつは、海で回遊することなく河川で成熟にまで達する残留型である。古くからこれら生活史の分岐に関する研究が行われており、成長が良い個体ほど残留型となることが多数報告されている。一方、分岐に対する遺伝性に関しては、飼育実験により生活史に対する遺伝性の高さが示唆されているものの、未だ野外において示した研究は非常に少ない。そこで本研究では、サクラマスを材料に人工授精を行い、野外において生活史分岐に対する遺伝性を明らかにすることを目的とした。人工授精に用いた個体は、降海型雌5尾(成熟年齢2-3歳、体サイズ48.5 ± 3.3 cm)、残留型雄10尾(0-1歳、13.6 ± 1.4 cm)および降海型雄10尾(2-3歳、38.0 ± 2.5 cm)である。これら個体を用いて受精された集団を調査支流の約1km上流域に埋没した。調査支流1500mに50mごとの調査区間を設定し、翌年の6月および9月にふ化した個体を捕獲し、各区間内の個体数を推定した。また、捕獲の際には体サイズの計測ならびに鰭の一部を切除し、遺伝子解析により性判別および親子判別を行った。その結果、上流域には下流域に比べ雄が多くいる傾向が示された。また、76個体が残留型として成熟していた。これら個体を親子判別した結果、降海型親の子供は28個体(30%)が成熟していたのに対して、残留型親の子供は48個体(43%)が成熟しており、親の生活史の違いが子の生活史分岐に影響していることが示唆された。また、各生活史形質間で残留型になる体サイズの閾値を調べた結果、両者に違いが認められなかったことから、残留型の子供の早い成長速度が多くの残留型になることと関連していると考えられた。


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