| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-352 (Poster presentation)

草原生絶滅危惧植物ヒナヒゴタイのモニタリング調査経過報告

*河野円樹(綾町役場)

里地里山の草地環境は、土地利用形態の変化や開発行為によって全国的に減少し続けており、それに伴う草原生植物の絶滅が危惧されている。中でも、一年生や越年生の短命の植物は、人為的な撹乱などの管理形態の影響を強く受ける可能性が高く、その動態は、生物多様性の高い草地環境を保全するための指標になると考えられる。

今回、九州の里地地域の草地を代表する種類で、環境省の絶滅危惧種にも指定されているキク科トウヒレン属の越年生草本植物ヒナヒゴタイ(Saussurea japonica)の生育状況を把握することを目的としてモニタリング調査を実施した。ヒナヒゴタイは、九州の低山地など比較的暖かい地域の草地に生育するほか、中国~朝鮮半島に分布する、大陸系の遺存植物の一つとされている。

本研究では、2009年から2015年まで宮崎県南部の里地地域において、ヒナヒゴタイの個体数が比較的多く、定期的な火入れ管理により維持されている草地のうち、①笠祇地区:種の多様性が高く安定した生育地、②古竹地区:畑の下で富栄養化している生育地、③高松地区:孤立した環境で管理が粗放的な生育地の3か所を選定した。それぞれの箇所に15m×15mの方形区を設置し、さらに3m×3mのサブコドラードに細分してヒナヒゴタイ個体群の変化を観察した。サブコドラート内において、ヒナヒゴタイのロゼット個体・開花個体それぞれについて、葉の枚数、サイズ(縦×横)、高さ、頭花の数(開花個体のみ)を計測した。また、植生情報もあわせて記録した。ヒナヒゴタイの個体群は、①~③のいずれの地域においても個体数そのものには大きな変化は見られなかったものの、一部の地域においては、生育環境が悪化しつつあることが確認された。定期的な火入れによりリタ―が消失し、実生が定着できる環境が整うことが、本種の安定的な個体群維持に必要な条件であることが示唆された。


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