| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-363 (Poster presentation)

深泥池浮島におけるニホンジカの採食による湿原植物変動の種差

*松井淳,阪口京(奈教大・生物),鄭呂尚(日本工営),辻野亮(奈教大・自然環境教育センター)

京都市北区に位置する深泥池は、貧栄養な水質の池に暖地では極めて稀なミズゴケ泥炭からなるおよそ3 haの浮島上に、寒冷地に見られる高層湿原生態系が残存する池として知られる。浮島湿原にはミツガシワ、サワギキョウなどの氷期由来の遺存種やカキツバタなどの希少種が生育している。近年この浮島湿原にもニホンジカが出没し始めた(辻野ほか 2007)。湿原にシカが出没することで、湿原植生や泥炭層を撹乱することが知られている。植物ごとに異なるシカの採食圧や植物側の耐性の差により湿原植生が変化することが予想される。

そこで2009年3月に浮島湿原に小規模な防鹿柵(1.5×1.5 m)と対照区を各6個設け、4月、5月、9月、11月に優占植物9種(アゼスゲ、カキツバタ、チゴザサ、ミツガシワ、ヨシ、イヌノハナヒゲ、ツクシカンガレイ、マコモ、アメリカセンダングサ)の生育を柵内外で比較した。

よく出現した植物種のうちカキツバタ(39.7%)、アゼスゲ(28.8%)、ミツガシワ(25.2%)にニホンジカの採食痕が多く見られ、柵内外での高さ生長に差が見られた。チゴザサ、ミツガシワ、ヨシの被覆面積は柵外で小さかった。一方ツクシカンガレイ、マコモ、アメリカセンダングサは、柵内外で高さ生長や被覆面積に差が見られなかった。またツクシカンガレイとアメリカセンダングサには採食痕が見られなかった。以上のことから、ニホンジカの採食圧によって優占植物のうちアゼスゲとカキツバタ、チゴザサ、ミツガシワ、ヨシおよびマコモは、浮島上で群落を後退させる可能性がある。群落後退後には、アメリカセンダングサやニッポンイヌノヒゲ、シロイヌノヒゲ、ハイヌメリグサなどの一年草が空所を一時的に占めた後、ツクシカンガレイが群落を拡大する可能性が示唆された。


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