| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-368 (Poster presentation)

企業ビオトープによるヤリタナゴ・マツカサガイの保全~富士通ゼネラルビオトープにおける地域の生物多様性保全の試み~

*関川文俊,法月直也(富士常葉大環防研),岡 孝嘉((株)富士通ゼネラル),大澤能孝((有)富士山自然科学研究所),山田辰美(常葉大・社会環境)

富士通ゼネラルグループでは生物多様性行動指針に基づき、浜松市の浜松事業所内に約3,000㎡のビオトープを整備した。整備の主な方針は、①浜松市の里地里山に生育・生息する動植物を保全する、②浜松市の有する希少な動植物のジーンバンクとする(主な保全・復元目標種はヤリタナゴとマツカサガイ)、③希少種のみでなく地域の生態系の保全や多様性を確保する、④社員への環境教育・家族への自然体験・地域住民とのコミュニケーション等の場とすることなどである。

ヤリタナゴは全国的に減少傾向にあり、静岡県では浜松市のごく狭い地域にだけ生息している。ヤリタナゴの産卵母貝となるマツカサガイもその周辺に分布が限られている。土地改良事業や河川改修によって、生息環境の減少や河川環境の連続性の阻害などが進み、両種の絶滅が懸念されている。事業所はこの両種の限られた分布域に存在することから、工場内に生息環境を再生することで、個体群の安定化に寄与できると考えた。また、並行して生息域外保全の取り組みも始めた。ヤリタナゴは産卵期に河川の本流から小流に移動し、マツカサガイに産卵することから生活史を保障する小川と池の環境を整備した。マツカサガイは砂礫底を好むことから小川の数箇所に早瀬を設け、砂礫底を創出した。

ビオトープ内で両種の稚魚や稚貝が採集され、繁殖していることが確認された。特にヤリタナゴの繁殖は2年続けて成功し、個体数の増加が見られた。ヤリタナゴは冬季に池の深場で留まっているが、繁殖期にはマツカサガイの生息している小川に遡上し、産卵している。孵った稚魚は流れの緩やかな小川に留まり、水際の植物帯の陰で遊泳しており、ビオトープ内に再生した生息環境が機能していると評価される。


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