| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-424 (Poster presentation)

外来種アライグマ対策の現状と課題

*池田透,鈴木嵩彬(北大・文)

外来生物法の施行以降、アライグマ(Procyon lotor)の防除対策を行う地域は全国的に増えており、一部では低密度状態に至るなどの成果も認められる。しかし、在来生態系の保全を目的とする外来種対策という意識は低く、有害鳥獣対策の延長としての農業被害対策に終始している地域が依然として多く認められる。結果的に、捕獲前後のモニタリング不足や、対策効果に関する定量的なデータ不足など、科学的管理を実施する為に必要な取り組みも、多くの地域が実施できていない現状にある。

外来種対策の主な担い手となる地方自治体にとって、外来種対策は数ある業務の一部であり、住民の理解を得られない限り、労力(人員、予算、時間)を割くことはできない。外来種対策において侵入初期対策は最も重要であるが、人間社会への被害が出ていない段階で早期の対策を行うことが困難なことや、被害の減少に応じて「被害が無いのにいつまで続けるのか」という声が挙がるなど、国民の外来種問題に対する認識が不十分である故の課題も多く残る。地方自治体からは、「国に明確な指針が無く、地方自治体任せになっている」との声が挙がるなど、効果的な防除手法の開発等という自然科学的なアプローチに加えて、社会的にもアライグマ防除体制の再構築が重要課題となっている。

こうした課題の解消のために、新たな捕獲ワナの開発などと並行して、生物的知識を持つ市民団体の協力による侵入初期対策の実施や官・民・学協働の防除体制の構築などが一部では進められているが、防除実施機関同士の情報共有が行われておらず、効果的な手法や戦略が共有されないという状況がさらなる課題として残る。これについてはアライグマ情報ネットワークを構築し、対策に有効な情報の共有化を進めており、今後は海外の協力も得て提供情報の質の向上を目指す予定である。


日本生態学会