| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


シンポジウム S03-3 (Lecture in Symposium/Workshop)

地方自治体における生物多様性の保全と活用に関する司令塔人材の登用の必要性

*橋本佳延(兵庫県博)

地域戦略の目的は、生物多様性を保全し、生態系を管理するための方針・施策を定めることで、地域の生態系から得られる恵みを将来にわたって得られる体制を整え、そのことで住民の福利の向上を実現することにある。

地域戦略の担い手である行政は、土地改変や盗掘などの「第一の危機」や外来生物や有害化学物質による生態系汚染といった「第三の危機」の課題を、保護・規制などの手法により解決に導くことは得意である。また、里地里山などでの人為的攪乱の減少により起こる「第二の危機」に対しては、市民や企業ボランティアに依存する保全活動や財政支出が伴う保全策に依存しがちである。

生物多様性問題の解決を持続させていくためには、上記のような保全だけでなく、住民の福利(行動と選択の自由、安全、経済、健康、社会関係など)の向上が実感できるような、活用と保全の両立が図れる施策が求められる。

ところが実際には、地域戦略の推進役を担う環境部局は、利活用に関連した事業を持たないため、また行政部局間の縦割りの厳しさから「とりまとめ」は可能でも保全・利活用の双方の司令塔となることは容易ではないため、結果として地方自治体の生物多様性施策は保全の枠にとどまらざるを得ない場合が多い。

そこで、この課題を解決する方策の一つとして、行政部局間を横断する形で生物多様性施策を推進するための人材を首長の補佐役として配置することを提案したい。内閣府では地方創生に対する意欲と能力のある国家公務員、大学研究者、民間人材を市町村長の補佐役として派遣する「地方創生人材支援制度」を設けている。このしくみを活用または模倣して、地方創生の施策の中に地域の生物資源の保全と活用を両立させる事業を組み込み、地方自治体における住民の福利に資する総合施策の推進の重要な要素として生物多様性を位置づけていくことを試みるべきではないだろうか。


日本生態学会