| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


企画集会 T03-3 (Lecture in Symposium/Workshop)

つる植物のホスト選択における識別能力と多様なまきつき反応

深野祐也(農工大)

植物の隣株識別能力は、主に地下部の根で研究されてきた。この理由は、植物の地上部は水平方向への生長が少なく、他株と接する機会が地下部と比べて少ないと捉えられてきたからだろう。しかしながら、つる性の植物の地上部は、ホストに巻き付くために垂直・水平方向に大きく展開し、様々な種類の株と接触する。つる植物にとってどの植物に巻き付くかは、その後の成長を左右する極めて重要な決定である。しかし、つる植物がホスト選択において識別能を持つという報告はこれまでなかった。

本研究では、つる植物としてブドウ科のヤブガラシに注目し、まずその自己識別能力(自株と同種の他株を見分ける能力)を検証した。その結果、ヤブガラシの巻きひげは自分と生理的に繋がった自株に対しては巻き付きにくいが、いったん切断し別の鉢で栽培した自株に対しては、他株と同じように巻き付くことがわかった。このことは、ヤブガラシの巻きひげは自他識別能力をもっており、株が連結して生理的に同調していることが自己と識別される条件であることを示唆している。この自己識別は、野外環境下でも同じように観察されたため、野外のつる植物の成長や空間パターンの形成、さらには他の植物の成長に与える影響において重要な役割を果たしている可能性がある。さらに、本発表では、より詳細にヤブガラシの識別能力と巻き付きの柔軟な可塑性を調べた研究も報告する。われわれの研究が示唆しているのは、つる植物は無差別に巻きついているのではなく、高感度の識別能をもち、巻き付き時に適応的な意思決定しているということである。つる植物が、巻き付く対象への選好性をもつことはこれまで見逃されていたため、つる-ホスト植物の生物間相互作用とその生態学的影響を大きく見直す必要があるだろう。


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