| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


企画集会 T10-2 (Lecture in Symposium/Workshop)

樹木における放射性セシウムの経皮吸収の影響と経年変化

*田上恵子(放医研), 内田滋夫(放医研), 石井伸昌(放医研)

チェルノブイリ原発事故後、ヨーロッパを中心に環境放射能研究が行われ、その知見は福島第一原発事故後の我が国の環境影響研究に活用されている。しかし両者を比較すると知見にいくつか違いがある。例えば、日本の土壌のCs収着能の高さや、木による放射性Cs経皮吸収の痕跡等である。特に落葉樹は、放射性物質が多く放出された2011年3月にはまだ出芽していなかったことから、欧米の研究者は樹体中の放射性Cs濃度が日本では低いと予測した。チェルノブイリ事故(4月26日に発生し放射性物質の放出が10日間継続)では、落葉樹はすでに出芽していたので、葉面吸収によって放射性Csが樹体内に移行したと考えられ、経皮吸収は考慮されなかったのである。しかし、我が国では常緑樹に迫る濃度が落葉樹からも検出された。

実際に放射性Csが経皮吸収で取り込まれたことを明らかにするのは難しい。放射性Csは土壌付加初期には動きやすいため、経根吸収された可能性が否定できないのである。我々はサクラを対象に、事故当時に根圏域土壌表面がアスファルトで被覆され土壌汚染がなかった木と、被覆が無く土壌が汚染した木各1本について、葉中の放射性Cs濃度を測定した。その結果、どちらも濃度は同程度であったことから、経皮吸収を示していると考えている。その後、2つの木から継続して葉を採取して濃度の変化を調べた結果、最初の3年は、ほぼ同じ約200日の環境半減期で放射性Csが減少したことがわかった。

現在、複数種の落葉樹および常緑樹の葉を継続して測定し、環境半減期を測定するとともに、同地域内において草本植物も採取して、経根吸収可能な放射性Csフラクションの変化も収集している。詳細は講演時に述べる。

本研究の一部は,資源エネルギー庁放射性廃棄物共通技術調査等事業費の予算で行われた。


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