| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


企画集会 T12-5 (Lecture in Symposium/Workshop)

ネオニコチノイド農薬による水田生物多様性影響評価から見えたもの

林岳彦(国立環境研)

日本において水田は湿地の代替生息地として生物多様性を維持する重要な役割を果たしている。日本人自身も水田を中心とする里山生態系の中で、その生物多様性が生み出す生産物やサービスを利用して持続型社会を構築してきた。その一方で、農業の集約化により水田生態系は大きく改変されてきた。近年では、化学合成農薬の使用による生物多様性の劣化が議論されており、中でも、水稲の箱苗に全国的に広く使用される浸透移行性の高いネオニコチノイド系農薬等の水田用殺虫剤については、その残効性と高い殺虫活性により水田生態系に対して深刻な影響を与えることが懸念されている。

我々はそれらのネオニコチノイド系農薬等の水田生態系への影響を調査するために、野外の実水田の調査、実水田を用いた実験、水田メソコズム実験、室内毒性試験、農薬の水田内での濃度動態の予測モデル、などの多角的かつ相補的なアプローチを組み合わせた研究プロジェクトを2013-2015年度の三年間に行なってきた。その結果、水田生態系が持つ本来的な変動性からなかなか見えづらかった農薬による影響が、三年間の研究の蓄積により徐々に見えるようになってきた。また、それらの結果から、水田生態系の農薬影響を調査・評価・管理することは当初の予想以上に一筋縄ではいかないことも分かってきた。本講演では、本研究プロジェクトから見えてきたそれらの「事実」と「難しさ」についての現状を紹介する。


日本生態学会