| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


企画集会 T15-3 (Lecture in Symposium/Workshop)

成虫越冬に関連したキタキチョウの繁殖戦略と精子の重要性

*小長谷達郎(京大・院・理)・渡辺 守(筑波大・生命環境)

キタキチョウは成虫越冬する蝶である。成虫は季節多型を示し、越冬する秋型と越冬能力のない夏型に区別される。関東地方では年に4化し、秋に羽化する最後の世代にのみ秋型が出現する。この時、全てのメスが秋型になるのに対し、オスには夏型と秋型の両方が羽化するため、10月から11月にかけて複数の季節型が混棲することになる。越冬できない夏型オスが冬直前に羽化する理由は議論の対象になってきた。ほとんどの秋型メスが越冬前に夏型オスと交尾するため、夏型オスもメスに精子を託すことで子孫を残している可能性がある。しかし、秋型メスは越冬後に秋型オスと再び交尾するので、夏型オスの繁殖成功度を推定するには、精子競争を考慮する必要がある。筆者らは、野外の秋型メスを採集し、卵巣内の卵の数とオスに注入された精包の形態から、産卵時期と最後の交尾からの日数を推定した。その結果、ほとんどの秋型メスが産卵開始よりも前に秋型オスと再交尾していることがわかった。夏型オスの繁殖成功度は精子競争の結果に極めて強く依存しているといえる。一般に、精巣の大きさは精子競争の強度を反映する。そこで、短日低温条件で育てた夏型オスと秋型オス及び長日高温条件で育てた夏型オスの精巣の大きさを比較したところ、有意な差は認められなかった。また、蝶類のオスは授精能力をもつ有核精子と授精能力のない無核精子という2種類の精子を生産する。野外個体を解剖し精子の長さを比較したところ、秋に採集した夏型オスや秋型オスは、6月に採集した非越冬世代の夏型オスに比べ、長い有核精子をもつことがわかった。さらに、越冬世代の夏型オスの生産する無核精子は、非越冬世代の夏型オスのものよりも短かった。季節型の混棲を適応的に解釈するには、精子に関する知見が必要不可欠と考えられた。


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