| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


企画集会 T17-4 (Lecture in Symposium/Workshop)

同一樹木個体内における体細胞間ゲノム変異の探索

陶山佳久(東北大・農)

多細胞生物の個体を構成する体細胞の分裂時には、DNAの複製ミスなどによる突然変異が生じる。したがって、長期間細胞分裂を繰り返す長寿命の樹木では、同一個体内の体細胞間にDNA塩基配列の変異が蓄積している可能性が考えられる。本研究では、このような同一生物個体内における体細胞間の変異の実態を明らかにするため、大規模塩基配列情報が取得可能な次世代DNAシーケンサーを用いて、樹木個体内のゲノム変異の検出を試みた。分析対象は、北海道大学苫小牧および雨龍研究林の樹齢150~220年のイタヤカエデ3個体・ミズナラ5個体とし、個体内の離れた枝の先端8~11ヶ所からDNA分析用の葉を採取した。採取した葉からDNAを抽出し、MIG-seq法(Suyama & Matsuki 2015, Sci Rep)に従ってゲノム中の数千領域以上の両端からそれぞれ80塩基の配列を次世代シーケンサーによって決定し、変異の検出を行った。各個体から得られたおよそ1000〜2000座を対象として、それぞれ10万塩基程度を解析した結果、イタヤカエデ1個体、ミズナラ2個体でそれぞれ1~2ヶ所の個体内ゲノム変異が検出された。このうち1個体のミズナラでは、1塩基の変異が樹木先端部の3ヶ所の葉で共通して検出され、同一個体内で生じた体細胞突然変異がその後の成長部位で固定したものと考えられた。これらの予備的解析によって、本手法を用いて個体内ゲノム変異の検出が可能なことが確かめられた。今後は分析対象座数を増やして同様に多くの変異を検出し、細胞分裂後の年数や組織間距離と突然変異量の関係を明らかにすることで、個体内における体細胞間ゲノム変異の全体像に迫ろうと考えている。さらに、個体内のゲノム変異量と物質循環量との関係についても解析する計画である。


日本生態学会