| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


企画集会 T22-4 (Lecture in Symposium/Workshop)

研究者の眼、行政の力、地域住民の思い:絶滅危惧種保全をめぐる順応的ガバナンス

菊地 直樹(総合地球環境学研究所)

絶滅危惧種の保全のためには、個体数を増やすことのみならず、その生息環境の保全・再生が不可欠な取り組みとなる。少なくとも日本の場合、絶滅危惧種の多くは人びとの生活空間を生息環境としており、保全・再生の対象となる生息環境は、社会関係をも含むきわめて複雑なシステムといえる。したがって、絶滅危惧種の保全は、多様な関係者がかかわり、多元的な価値が併存する状況に置かれることになる。

以上の問題意識に基づき、本報告では絶滅危惧種保全の目標として、生息環境の保全・再生を軸にした多元的な価値の実現、具体的には生息環境の保全・再生と地域の多様な活動をつないでいく地域再生の一体的な実現を設定する。多元的な価値を実現するためには、地域住民、行政、研究者といった多様な関係者が、目標を緩やかに共有しながら、相互の価値観の異質さを学び合い、協働していくことが重要となる。社会的しくみや価値を地域ごとに順応的に変化させながら、試行錯誤していく協働のあり方を「順応的ガバナンス」とよんでおこう。

本報告では、報告者が当事者としてかかわってきた兵庫県但馬地方で進められている「絶滅危惧種コウノトリの野生復帰プロジェクト」を事例として取り上げる。水田などを生息環境とするコウノトリの野生復帰では、コウノトリを利用しながら守り、守ることによって地域資源としての価値を高める取り組みが進められている。具体的な取り組みの分析を通して、コウノトリを地域での多元的な価値の創出に向けた選択肢として成り立たせる順応的ガバナンスの要件を考察する。とりわけ、科学的な眼を持った研究者、力を有する行政、思いをはせる地域住民という多様な関係者たちが、それぞれの役割を担いながら協働していくための要件について考えてみたい。


日本生態学会