| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(口頭発表) A02-08  (Oral presentation)

資源と個体の空間分布に相関がある場合の個体群動態を第一原理から考える

*穴澤正宏(東北工業大学)

 昆虫などの季節的な繁殖を行う生物の個体群動態は、さまざまな離散時間の個体群モデルを使ってモデル化されてきた。個体群サイズの変動は個体群を構成する各個体の繁殖や死亡という過程から結果的に生じるものである。そこで、個体群動態モデル(方程式)をはじめから仮定するのではなく、それを個体間の相互作用から第一原理的に導出することで、モデルの背景を理解しようという試みも行われてきた。例えば、多数のパッチからなる環境において、資源をめぐる競争が主に幼生期に生息するパッチ中に制限されている場合には、比較的実行しやすい計算により、Rickerモデルなどの基本的な個体群モデルが導出された。しかし、この計算では、パッチ内の資源量と個体数の分布は独立であると簡単化されていた。一般に、資源の多いパッチには個体も多く集まるはずであり、資源と個体の空間分布の間には正の相関があるはずである。一般に個体群動態は、資源と個体の空間分布から大きな影響を受けるので、両者に相関がある場合は個体群モデルも大きく異なることが予想される。
 今回、資源と個体の空間分布に相関がある場合の個体群モデルを第一原理的に導出した。ここでは、パッチに入る個体数の期待値はそのパッチ内の資源量に比例すると仮定した。得られた個体群モデルの表式はやや複雑なものとなったが、対応する個体ベースシミュレーションの結果をうまく再現した。スクランブル型の資源競争を仮定した場合、相関があるときの再生産曲線は、相関がないときのものと比べると個体数密度の関数として変動が大きくなっている。平衡点が安定となるパラメータ領域も、相関がある場合は狭くなっているので、資源量と個体数の間に相関があると動態は不安定化することが分かる。講演では、主に、得られた個体群モデルの特徴や安定性について考察するが、時間があれば種間競争モデルへの拡張についてもコメントする。


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