| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(口頭発表) B01-11  (Oral presentation)

丹後半島山間部の水田の管理と生物多様性

*深町加津枝(京都大学), 麓慎太郎(株)グラフィック)

本研究は、丹後半島山間部の京都府宮津市上世屋に位置する大フケ湿原、および周辺にある放棄後30年以上が過ぎたかつての水田を対象に、植生や希少種の分布状況、水位・水質や地形など水環境との関係を明らかにすることを目的とした。調査対象地は、大フケ湿原を含む北西部約1km四方内の放棄水田であり、ArcGISを用いた地形解析を行うとともに2013年5〜12月に植生調査や、水環境に関する現地踏査を行った。55筆となる大フケ湿原および放棄水田で確認された優占種は、ヨシ、サンカクイ、ミゾソバ、ノリウツギ、チマキザサなどの15種であった。最も大きい面積を占めていたのはヨシであり、8種は湿生草本、7種は乾性の草本や木本類であった。また、55筆内に設定した67の方形区における植生調査の結果からは、合計32種の植物種が確認され、そのうち京都府RDBに記載される希少種はクサレダマ、ノハナショウブ、ミツガシワなど11種であった。最も多くの希少種が確認されたM放棄水田は大フケ湿原南部に位置し、三方が傾斜地となった盆地状の立地にあった。地元住民からの聞き取り調査によれば、M放棄水田は放棄後約50年が経過し、それ以前は「ジル田」のため丸太を埋めて稲作を行っていた。放棄後の地形改変や別の土地利用は行われていなかった。地形解析結果からは、大フケ湿原南部より流出した水は北西部から流れ込んで一帯を涵養し、その後南東部より流出していた。今回確認された希少種は全て湿生植物であり、その大部分が草本であったため、平均傾斜角の値が小さく水が溜まりやすく、流速が小さいことが重要な要因となっていることが示唆された。湿生植物が優占する水環境としては、平均水位が-5cm以上あることなど、水位との関係が重要であり、平均水位の細かな違いにより異なった種が優占していることなどが明らかになった。


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