| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(口頭発表) B02-01  (Oral presentation)

「プランクトンのパラドックス」再考:八代海夏季プランクトン相の変遷から

*田辺晶史(中央水研), 長井敏(中央水研), 安池元重(中央水研), 中村洋路(中央水研), 藤原篤志(中央水研), 加藤雅也(中央水研), 多治見誠亮(熊本県・水研セ), 吉村直晃(熊本県・水研セ), 西広海(鹿児島県・水技セ), 小林敬典(水研本部), 五條堀孝(KAUST)

ハッチンソンは1961年に、プランクトン群集においてあまりにも多くの種が同時に共存しており、生態学の理論上の予測と矛盾することを指摘した。今回我々は、八代海において2011年から2015年の夏季プランクトン相の変遷を6月から9月まで週1回程度の採水・濾過・18S rDNAメタバーコーディングにより調査し、群集構造を解析した。その結果、種構成の相関がなくなるまでの期間は約30~50日程度必要であった。プランクトンの世代交代速度を考えれば競争排除が起きるには十分な期間と考えられる。また、群集系統学的解析およびチェッカーボードスコアの分析により、系統的に近い種が共存している(phylogenetic clustering)ことがわかった。PERMANOVAでは群集組成と生息環境との間に相関が認められた。これらの結果から、八代海夏季プランクトン群集では、環境の好みが似ている近縁種が共存していると言える。そのような種間では、本来最も種間競争が激しくなるはずであり、共存は難しいと考えられることから、プランクトンのパラドックスを説明するどころか、逆に謎は深まったと言える。パラドックスを説明する仮説は多数提案されており、「もはやパラドックスではない」と主張する研究者もいるが、今回の結果はこれまで考えられていたよりも強力な競争緩和機構の必要性を示唆しており、プランクトンのパラドックスは未だパラドックスであると言えるだろう。


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