| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(口頭発表) D01-13  (Oral presentation)

食物網における栄養転換効率の栄養段階依存性〜生態系レベル・種レベルの比較〜

*梅田あやか, 近藤倫生(龍谷大・理工)

生態系の中で、個体群の再生産にかかわる物質は、食物網を通してやり取りされる。食物網の中を流れる物質のフローの理解をすることは、保全や海洋生物資源の利用を考える上で重要である。食物網に入ってくるフローは光合成生産やデトリタス食者による生産に限られており、最上位捕食者でも食物網を遡ると、このような基底種の生産に依存している。ある栄養段階の生物が食べた物質の大半は呼吸や死亡などで環境中に放出されるため、より高次の栄養段階に渡るフローは一部である。ある栄養段階の生物が取り込んだフローと、より高次の栄養段階の生物へ渡るフローの比を栄養転換効率と呼ぶ。この栄養転換効率は慣習的に0.1とされている。しかし、栄養転換効率の計算やその用法には食物網のスケールに係わる混乱が見られる。また先行研究では、複雑な食物網に所属する種が、どのような栄養転換効率をとるのか実際の食物網で計算された例はない。本研究では公開されている21の水域食物網のデータを元に、そこに属する栄養種の栄養転換効率を計算した。21の食物網からすべての種の栄養転換効率の平均をとると、従来の仮説通りおおよそ0.1である。しかし、食物網ごとに栄養転換効率は種の栄養位置および、食物網を構成する栄養種数と関連があることがわかった。
生態系を考慮した漁業管理の指標として、漁獲物の餌生物を遡って一次生産量に換算する、primary production required(PPR)が広く計算されている。そこで使用されている栄養転換効率は栄養段階について計算されたものが用いられ、この値には栄養段階による傾向はないものとされているが、これは本研究の結果とは異なっている。PPRのより精度の良い推定を行うためには、食物網構造の理解について見直しが必要であることを示唆する。


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