| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(口頭発表) E02-02  (Oral presentation)

オオコウモリのねぐらにおけるオス間同性性行動とその適応的説明を考える

*杉田典正(科博・植物)

最近、オオコウモリ類の交尾においてフェラチオやクンニリングスとよばれる交尾相手の性器を舐める行動が注目されている。これらの異性間で起きる性器を舐める行動は、受精率の上昇や精子競争の機能があると示唆されている。今回、オガサワラオオコウモリのオスが他個体の勃起したペニスを舐める行動(同性間フェラチオ)を発見したので紹介する。
 オオコウモリ類は、日中に樹上にねぐらをつくる。小笠原諸島父島のオガサワラオオコウモリは、毎年冬季に伝統的に集団ねぐらとして使用されるある地域に、100頭を越える個体が集合する。このオオコウモリは、コウモリだんごと呼ばれる複数個体が房状に密着する洗練された社会的体温調節をおこなう。集団ねぐらでは、オスとメスが分離したグループを形成する。メスグループに含まれる少数のオスがメスと交尾を行う。オスグループではオス同士がコウモリだんごを形成する。
 必要な許可を得て、2009年4月に37.5時間の目視観察をおこない、オオコウモリが性器をなめる行動を観察した。オス間の勃起したペニスをなめる行動は、8回観察された。この行動により射精は起こらなかった。他のいくつかのオオコウモリ類で見られる相互グルーミングは、オガサワラオオコウモリでは観察されなかった。オスがメスの性器を舐める行動は、メスグループにおいて21回観察され、すべて交尾前に起きた。
 いくつかの動物でオス間の同性性行動は、社会的結合の強化と社会的緊張の緩和といった機能的説明が仮説として提案されている。オガサワラオオコウモリでは、今回の観察と本種の社会構造を考慮するとこれらの仮説が当てはまるとは考えにくい。オガサワラオオコウモリにおけるオスの同性間フェラチオは、集団ねぐらにおける社会的体温調節のための協力行動と配偶相手を巡る競争が存在するねぐらでの葛藤の解決に役立つのかも知れない。


日本生態学会