| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(口頭発表) F02-01  (Oral presentation)

サケの性的サイズ二型: 野生魚と放流魚の違い

*森田健太郎(水産研究・教育機構北海道区水産研究所), 佐藤俊平(水産研究・教育機構北海道区水産研究所), 荒木仁志(北海道大学大学院農学研究院)

多くの動物では体サイズに雌雄差がある。性的サイズ二型は、繁殖時の雄間闘争などの性選択によって形成されうる。

しかし、人工繁殖がなされた場合は、自然界に存在する性選択が作用せず、性的サイズ二型が失われるかもしれない。漁業資源であるサケは、人工ふ化放流事業が盛んに行われている。人工ふ化放流においては、河川で遡上したサケ親魚を捕獲し、採卵と人工授精が行なわれ、稚魚まで飼育した後に放流される。近年では、遺伝的多様性に配慮するという目的で、体サイズに関係なく、無作為に親魚が選ばれている。このような“無作為という作為”が作用すれば、サケに本来備わる性的サイズ二型が失われるかも知れない。

本研究では、人工繁殖によって生まれた放流魚と、自然産卵によって生まれた野生魚について、成熟時の性的サイズ二型を比較した。調査は2014~2016年に北海道の斜里川と遊楽部川で行い、それぞれ二か所の産卵場において繁殖後の個体を収集した(n = 1249)。一か所は、ふ化放流が行われている支流(以後、ふ化場集団)、もう一か所は、ふ化場から離れた場所に位置する産卵場(以後、野生集団)で行った。両河川では、耳石温度標識を用いた大量標識放流が導入されており、野生魚と放流魚の個体判別は、耳石温度標識の確認によって行った。

斜里川と遊楽部川の両河川において、野生魚も放流魚も雄の方が雌よりも大きく、性的サイズ二型が認められた。しかし、野生集団の野生魚と比べると、ふ化場集団の放流魚の雌雄差は小さく、放流魚の性的サイズ二型はあまり顕著ではなかった。さらに、遊楽部川では、同じ集団内においても同様のパターンが見られ、ふ化場集団でも野生魚の方が体サイズの性差が大きかった。すなわち、一世代の性選択においても、性的サイズ二型が強まるのかも知れない。

以上の結果から、性選択を伴わない人工ふ化放流は、サケの性的サイズ二型を弱めることが示唆された。


日本生態学会