| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(口頭発表) G01-07  (Oral presentation)

パレート最適性がもたらす進化的制約の再検証-系統学的観点から-

*三上智之, 岩崎渉(東大・院理)

 近年、パレート最適性という概念を用いて生物の表現型進化を説明できる可能性が議論されている (パレート理論とよばれる。 Shoval et al., 2012) 。この理論は、複数の機能の間に進化的なトレードオフが働くとき、実現する表現型が表現型空間上の単体 (線分、三角形、四面体などの図形) 状の領域上に限られ、この単体の頂点が一つの機能に特化した表現型に相当すると予測する。
 実際の表現型データがパレート理論の予測に従っているか確かめるには、 表現型の分布が単体に近いかの統計的な検証が必要である。このような検定手法として、先行研究ではt-ratio test (Shoval et al., 2012) とよばれる手法が考案されている。t-ratio test では、 全ての形質が独立であるとの仮定の下、形質値をデータ点間でランダムに入れ替えたデータセットを複数作成し、元のデータセットがこのデータセットと比べ有意に単体に近いかどうかを調べる。しかし Edelaar  (2013) は、系統的制約が形質間の非独立性をもたらすことで、種間比較ではこの手法が第一種の過誤を引き起こしやすいと指摘している。
 そこで本研究では、系統関係を考慮したデータセットのランダマイズ手法であるモビールシャッフリング法を開発した。この手法は、姉妹群間の表現型空間上での距離を維持して元のデータセットをランダマイズする。モビールシャッフリング法を用いたt-ratio testでは、系統的制約が弱いほど有意性が高くなる傾向があることから、この手法は系統的制約を正しく評価できていると考えられる。開発した手法を用いて、これまでにパレート理論により説明できるとされたデータの再検証を行ったところ、有意性が検出できない例が複数確認された。パレート理論が実際の表現型進化においてどの程度成り立っているのか、今後の検証が必要である。


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