| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(口頭発表) G01-13  (Oral presentation)

寄生蜂2種の生活史形質の可塑性と競争を取り入れた推移行列のelasticity解析

*嶋田正和, 長瀬泰子, 笠田実(東大・総合文化・広域)

推移行列の弾力性(elasticity)はどの齢期の生存率と繫殖力が自然選択に敏感かを示す指数であるが、自然界での生活史形質は、実際には、密度依存的効果(種内・種間競争)や環境変動、表現型可塑性など変化をもたらす要因はさまざまにかかるので、現実の弾力性の解析は大雑把なものが多い。特に、表現型可塑性の効果を含めた弾力性の解析の先行研究はあまり実行されていない。よって、弾力性に影響を及ぼす要因を制御した実験系での解析が必要であり、本発表ではAnisopteromalus属の寄生蜂を対象とした実験系での解析を試みた。ゾウムシコガネコバチ(Anisopteromalus calandrae)は寄主の体液を吸汁するため、ハチミツ給餌にかかわらず一定の生存曲線と繁殖力を示す。一方、隠蔽種A. quinariusはハチミツ給餌の有無で生存曲線と繁殖力に大きな表現型可塑性を示す。よって、我々は3つの密度条件を設け、日齢生存率と日齢繁殖力を計算した。3つの密度条件は(1)雌1匹条件、(2)低密度条件、(3)高密度条件である。ただし、(2)と(3)は蜂の羽化後3週間までの計測を繰り返した。(1)と(2)はH. Caswellグループ作成のソフトで弾力性を推定し、(3)は競争置換実験の結果をまとめた。その結果、A. quinariusは大きな表現型可塑性を発揮したが、それでもその最大固有値はA. calandraeのそれを越えず、(3)でも寄生する母蜂の割合以上に次世代生産数のA. calandraeの比を越えることはなかった。よって、A. quinariusは局所的には競争的排除の可能性に晒されると予想されるが、2種の欧州~北米の生息分布を対照すると、2種が広く共存している実態には、局所的分布の隔離と、宿主が余剰のため競争的排除が起こらない非平衡動態が関係していると推察される。


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