| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(口頭発表) I02-02  (Oral presentation)

環境水からの魚類由来RNAの回収・抽出手法

*垣見直希(龍谷大・院・理工), 山中裕樹(龍谷大・理工)

環境DNA分析は環境水に含まれるDNAを検知し生物種を特定する手法として注目されている。環境DNA分析の応用が進む一方で、DNAでは産卵や代謝などの生物の状態に関わる情報を推定することができない。ここで、生物の活動を反映するRNAを環境DNAと同様に水試料から分析することで生物の活動を推定できると考えられるが、RNAは水中で分解されて分析が困難であると考えられていた。本研究では、環境RNA分析では基礎的情報の集積や分析手法について研究がされていない環境RNA回収、抽出手法の検討に取り組んだ。試料は野外池から採取された水試料を用いて、水試料の保存における塩化ベンザルコニウム処理の影響、濾過後のフィルター試料保存におけるRNA保存試薬の添加量の影響、フィルター試料からの環境RNA抽出における市販キット間での収量の比較、逆転写反応での阻害の影響について検証した。各実験とも環境RNA分析の対象種はコイ (Cyprinus carpio) のミトコンドリア、チトクロム b 領域を対象として逆転写定量PCRを用いて定量した。結果、環境RNA試料において塩化ベンザルコニウムの添加とRNA保存試薬の含有濃度の検討では収量の増加は確認されなかった。また、環境RNA抽出ではNucleoSpin RNA Plusが最も環境RNAの収量が高かった。本研究で環境RNAの収量が最も高い回収、抽出手法が明らかになったことから、今後は環境RNA分析による代謝や産卵に関する研究がさらに進展し、外来種の定着や希少種の生活史の解明など生態系管理における情報収集のための野外適用が可能になると考えられる。このように、注目する遺伝子に応じて様々な応用が可能で、例えば病原生物への感染、発病などに関連して発現量が変化する遺伝子を対象として環境RNA分析により検出するなど、疫学その他の異分野での新たな展開も期待される。


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