| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(口頭発表) I02-06  (Oral presentation)

モンゴル草原における放牧民の社会・生態結合ダイナミックス

*巌佐庸(九州大学・理), Lee, Joung-Hun(九州大学・決断科学セ), 柿沼薫(東工大・理工学), 大黒俊哉(東大・農)

モンゴル南部の草原では、乾季においては特に深い根を持つ一部のものを除いてイネ科草本が消失する。採餌圧が高まり残された草本の生物体量も減少するため、特に多数の家畜を抱える一部の遊牧民は、採餌場所を求めてより湿潤な北部に移動する。彼らは、南部草原でのイネ科草本が回復すると戻ってくる。
 このシステムにおける、遊牧民の社会・結合ダイナミックスを調べた。仮定は、(1)イネ科草本の量が、成長・回復と採餌圧によって変動する(生態ダイナミックス)。(2)遊牧民は、採餌効率とコストなどを考慮して採餌場所を選ぶ(社会ダイナミックス)が、これはロジット力学(確率的最適応答動学)による。
 これらの結合動態は、初期値によって最終的な挙動が大きく異なることや、大きな振幅を持つ永続的振動など、典型的な非線形ダイナミックスを示す。大きな振動を抑制するためには、現在の各地の植物体量に関する信頼できる情報を供給するなど人々の意思決定を速める政策や、人々の間でのコンフリクト解消を促す施策などが、効果を発揮すると予測される。従来は、雨量などの気象変動がイネ科草本の成長に影響を与え、その変動に従って遊牧民が移動すると考えられてきた。本研究は、たとえ一定環境であったとしても社会/生態ダイナミックスによってイネ科草本と遊牧民の分布の大きな振幅を持つ変動がつくり出されることを示す。このような自律的振動と気象変動を組み合わせたシステムの研究が必要である。
Lee et al. (2015) Coupled social and ecological dynamics of herders in Mongolian rangelands. Ecological Economics 114:208-217.


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