| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(口頭発表) J01-10  (Oral presentation)

同所的に生息するカワムツ属2種の標識再捕獲調査と遺伝的多様性

*松岡悠, 平井規央, 石井実(大阪府大院 生命)

 カワムツ属2種,ヌマムツCandidia sieboldiiとカワムツC. temminckiiはコイ科に属する純淡水魚である.ヌマムツは各地で個体群の衰退が懸念されており,10府県でレッドリストに掲載されているが,カワムツは衰退の傾向が報告されている地域はほとんどない.本研究では,両種の成長率,世代時間,移動頻度を明らかにするために,大阪府の1水系4支流で標識再捕獲調査を行った.

 調査は,ヌマムツについては2012年5月~2013年8月の2週に1回,カワムツについては2016年1~10月の各季節に2~3回実施した.標識には蛍光イラストマータグを用い,個体識別を行った.水系内における集団間の交流頻度を明らかにするために,一部の個体を採集し,mtDNAのcyt b遺伝子を用いて,4支流の各地点間における遺伝的分化の程度を調査した.

 標識再捕獲調査では,ヌマムツ963個体とカワムツ350個体に標識して,それぞれ275個体と28個体を再捕獲した.その結果,一年を通した成長率はヌマムツの方が大きかった.捕獲個体の体長の頻度分布を比較したところ,ヌマムツは各季節において主に1つのピークが確認されたが,カワムツは複数のピークが認められた.堰堤によって区切られた調査地点の上下流でも再捕獲調査を実施したところ,両種は下流側のみで標識個体が確認され,その頻度はヌマムツが0.1%,カワムツが1.5%であった.mtDNA解析では,ヌマムツ74個体とカワムツ41個体を解析に使用した.その結果,ヌマムツでは河道距離で約20 km離れた地点間に遺伝的分化が確認されたが,カワムツでは同地点間の遺伝的分化は小さかった.

 以上の結果から,ヌマムツは世代時間が1~2年と短く,環境変動によって繁殖が一年でも妨げられた場合,個体数を減少させる可能性が考えられる.また,ヌマムツは移動頻度が低く,比較的狭い範囲で生活史を完結させていると推測され,生息域の分断化・小集団化が起こりやすいと考えられる.


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