| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-A-008  (Poster presentation)

マヤサンオサムシの後尾器形態の地理的変異は生殖的形質置換か?:交雑のコストとコスト回避の可能性。

*西村太良(神戸大・発達科学部), 高見泰興(神戸大・人間発達環境学研究科)

 種分化は生物多様性を生みだす根源的過程であり,生殖隔離はその重要な要因である.種分化の過程では,祖先種が異所的集団に分化した後,二次的接触による交雑が生じた時,交雑のコストを避けるような形質の分化(生殖的形質置換)が生じる可能性がある.オオオサムシ亜属は,雌雄交尾器の形態が種間,種内で著しく分化しており,集団間の交尾器形態の不一致が生殖隔離機構として働くことが知られている.マヤサンオサムシとイワワキオサムシは近縁で,側所的に分布している.マヤサンオサムシの交尾器形態には生殖的形質置換と整合的な地理的変異がある.そこで本研究は,マヤサンオサムシの交尾器形態の地理的変異は生殖的形質置換によって生じたという仮説を検証することを目的とする.
 本研究ではマヤサンオサムシとイワワキオサムシを用いて,交尾器形態の地理的変異,交尾器挿入前(交尾前)と交尾器挿入後(交尾後)の交雑コスト回避の可能性を実験によって調べた.仮説が正しければ,側所的な亜種は,交尾器が機能する交尾後の段階で交雑コストを回避していると予側される.
 マヤサンオサムシの交尾器形態の地理的変異を測定したところ,予測通り,側所的に分布している亜種の方が、イワワキオサムシとの種間差が大きかった.また,配偶者識別による交尾前の交雑コスト回避が,側所的な亜種で確認された.しかし,交尾後の交雑コスト(交尾時間のロス,精包のロス,交尾器損傷)は側所的な亜種で減少せず,交雑コスト回避に交尾器が機能しているという証拠は得られなかった.
 本研究の結果は,マヤサンオサムシの交尾器形態の地理的変異と交尾前の配偶者選好性は生殖的形質置換の予測と合うことを示している.しかし,交尾後の段階で側所的な亜種が交雑のコストを避けているという結果は得られなかった.このことは,マヤサンオサムシの交尾器形態の地理的変異の要因は,生殖的形質置換ではない可能性を示唆する.


日本生態学会