| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-A-010  (Poster presentation)

味覚受容体遺伝子から辿るジェネラリスト植食者の進化

*鈴木啓(東北大・生命), 尾崎克久(JT生命誌研究館), 牧野能士(東北大・生命), 内山博允(東農大・ゲノム), 矢嶋俊介(東農大・ゲノム), 河田雅圭(東北大・生命)

植食性昆虫の大半は特定の植物種のみを寄主とするスペシャリスト種であり、多様な植物を寄主として利用できるジェネラリスト種はごく少数しか存在しない。非常に稀であるジェネラリストへの進化は、どのような遺伝的変化によって起こるのだろうか? 植食性昆虫のホストレンジ(寄主植物の多様性)は、雌成虫の産卵時の寄主選択性に左右される。鱗翅目チョウ類では、雌成虫は脚部の味覚受容体を介して植物表面の二次代謝産物を感知することにより、産卵の可否を判断している。また、様々な生物において、ゲノム中の化学感覚遺伝子の数と資源利用様式の関連性が報告されている。これらのことから、チョウ類におけるジェネラリスト種の進化は、寄主選択に関与する味覚受容体遺伝子(GR)ファミリーの数の変化と関連する可能性が予想される。そこで本研究では、タテハチョウ科に属する近縁4種を対象に、雌成虫の脚部で発現するGRの遺伝子レパートリーの比較を通して、ホストレンジの遺伝的基盤とその進化過程の解明を試みた。その結果、脚部のGR数とホストレンジの間には有意な関連は見られなかった。しかし、ジェネラリスト種の系統においてのみ、二次代謝産物の受容に関与するGRの新規獲得が複数回起きたことが判明した。これらの結果は、スペシャリストからジェネラリストへの進化がGRの増加を伴って起きること、また寄主選択時により多様な二次代謝産物を認識する能力がジェネラリストにおいて適応的であることを示唆している。一方、保有するGRの数自体は、遺伝子重複・喪失の系統的制約に影響されるため、各種の現在のホストレンジを必ずしも反映していないと考えられる。さらに本発表では、GR数の変遷から祖先種のホストレンジを推定する試みについても議論する。


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