| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-B-032  (Poster presentation)

過去と現在の分布データ比較による山梨県を中心としたシダ植物種構成の推移

*松浦亮介, 佐藤利幸(信州大学)

現在までに観測されている地球温暖化などの環境変動は生物の活動に直接的・間接的に大きな影響を及ぼし、地域生態系の種構成に変化を与えている。本研究では環境変化に対し敏感に反応すると考えられるシダ植物に着目した。また、シダ植物の分布データは倉田・中池(1979-1994)により過去のシダ標本情報が国土地理院2次メッシュスケールで詳細にまとめられている。比較に用いる現在における植生データは、特に植物相の変動が観察しやすいと考えられる冷温帯植生南限と暖温帯植生北限の中間領域にまたがり、多様度が非常に低い地点を含みつつ本州における希少シダ種の存在率が高い山梨県甲府盆地周辺を調査地域と定めた。これらを基に、過去約20年間におけるシダ植物相にどれだけ変化が生じたか、また変化が見られた場合どの程度推移が見られたか検証するため観察スケール毎に変動率に差が見られたかについて解析を行う。
調査地点は甲府盆地を中心に周辺1都4県を含む2次メッシュ64区画を利用した。各1区画内の3地点から2006-2015年に採取したシダ植物標本情報を分布データとして使用した。比較対象の過去データとしては倉田・中池のものを利用した。メッシュのスケールを10~80km単位で区切り、連続した方形区の全組合せについてSørencen指数を用いて過去と現在のデータについて類似度の比較を行った。さらに、10km~70km各スケール間の類似度の平均値についてTukeyの多重比較を行い有意性の検定を行った。
メッシュ間の過去・現在の植物相の類似度は20~80kmスケールにメッシュを統合・拡張すると58~66%と大きな変化は見られなかったが、最小単位の10kmスケールでは類似度が約44%であった。10kmスケールの類似度は多重比較を通じても他のスケールと顕著に有意な差が見られた(p<0.001)。以上より、過去20年間を通じて甲府盆地周辺では10km単位で植生が大きく推移した可能性が示唆された。


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