| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-B-038  (Poster presentation)

台湾産マンネングサ属の平行適応放散

*伊東拓朗(東京農工大学), 游旨价(台湾大学), 鍾國芳(中央研究院), 國府方吾郎(国立科学博物館)

 適応放散とは、一つの共通祖先から多様な環境に適応した形質を持つ種が急速に分化する現象を指し、植物種では特にヒマラヤやアンデスなど熱帯・亜熱帯に位置する高山域において同現象が近年数多く報告されてきている。台湾は亜熱帯に位置する大陸島でありながら3000m級の山系が発達しており、まさに同現象が確認されうる条件を満たしている。そこでその一例を探索すべく、発表者らはその高地環境で多様な光や水分環境に生育し、著しい種多様化を遂げている植物群であるマンネングサ属(ベンケイソウ科)に着目し、台湾固有種13種を含む東アジア産マンネングサ属種について、核及び葉緑体DNA配列をもとに網羅的な①系統解析及び②祖先状態復元、③分岐年代推定を行った。
 ①の結果より、台湾固有のマンネングサ属種は2系統からなり、各クレードを形成する種間の遺伝的な距離は著しく短いことが示された。また、各クレードには全く異なる生育環境をもつ種が入れ子状に位置し、特に雲霧林の樹幹着生性種と高山性岩礫地性種については独立的に出現していた。②の結果からは、各系統において祖先種が日本と中国から独立的に移入したことが支持された。③の結果からは、各クレードにおける高山性種が種多様化を遂げた年代は0.86-0.82 Maと推定され、台湾の山脈がアップリフトを経験し、おおよそ山脈が成立した1.0 Maと相関して種多様化が起きたことが示唆された。これらの結果に加え、生育環境と葉形態には相関が見られた。
 以上より、台湾固有のマンネングサ属種は、台湾という同一地域内で複数系統が類似生育環境シフトを独立的に経験し、さらにごく短い期間に急速かつ平行的に適応放散を起こしたことが明らかになった。本研究発表では、生物・非生物的側面から、台湾におけるマンネングサ属種の特殊な平行適応放散を引き起こした要因について考察する。


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