| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-B-049  (Poster presentation)

中山間地域の水田景観における植物相のフェノロジーパターンの解析

*渡辺太一(信大院・総合工), 大窪久美子(信大・学術院農)

水田景観の豊かな植物相の成立には、水田や畦畔など様々な景観要素が混在する空間的多様性だけでなく、そこに季節毎の気候や耕作管理の変化による時間的多様性も深く関与すると考えられる。しかし、これらを解明した研究は少ない。そこで本研究は、長野県諏訪市の中山間地域における水田景観を事例に、植物相のフェノロジーパターンを解析し、保全上の基礎的知見を得ることを目的とした。
対象地は、既報(渡辺ほか、2013)の調査地の中で出現種数が最多であった伝統的水田地域とし、調査面積は20haである。調査は2010年の3月から11月の毎月中旬に実施し、7つの景観要素(水田・畑地・休耕地・畦畔・法面・農道・水路)における出現種とその開花状況を記録した。なお、本データの一部は既報(渡辺ほか、2013)で使用した。
全370種のフェノロジーパターンや種特性を検討した結果、7タイプの季節型が認められた。以下に各季節型の特徴(出現時期(月)/開花盛期(月)/種数/主な種組成/主な出現景観要素)を記す。【春型】3-5/4-5/20/一年生植物(以下Th)・地中植物(以下G)・半地中植物(以下H)・動物媒:ホトケノザ・ミチノクフクジュソウ等/法面【春-夏型】3-9/5-6/12/Th・H・動物媒:ミミナグサ・ノアザミ等/法面・畦畔【初夏-夏型】5-8/7/36/H・水湿性植物(以下HH):ヌカボ・ドジョウツナギ等/法面・畦畔【夏型】7-9/8-9/29/G・HH・希少種:スズサイコ・ホッスモ等/法面・水田・水路【初夏-秋型】5-11/8-9/119/G・H:アキカラマツ・ススキ等/法面【夏-秋型】7-11/9/89/Th・HH・希少種:ヌカキビ・サワトウガラシ等/法面・畦畔・休耕地・水田【春-秋型】3-11/5-6/65/H・外来種:シロツメクサ・エゾノギシギシ等/法面・畦畔・休耕地・農道。
以上のパターンの認識は、水田景観の生物多様性の評価や保全へ有用な指針を与えうる。特に、5月に実施される草刈りは、初夏に起こる群集の入れ替わりを促進する重要な役割を果たすと考えられた。


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