| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-C-106  (Poster presentation)

トウキョウサンショウウオにおける遺伝的多様性の空間変異とその形成要因

*岡宮久規, 菅原弘貴, 草野保(首都大・生命)

トウキョウサンショウウオは福島県と関東地方に分布域を持つ止水性サンショウウオの一種である。本種の遺伝的多様性は分布の中心部で最も高くなり、周縁部で低下する一山型の明瞭なパターンを持つ。分布周縁部での遺伝的多様性の低下は、適応進化の抑制(または有害遺伝子の発現)を通して分布限界の形成にかかわる可能性がある。つまり遺伝的多様性の空間変異は種の分布パターンを理解する上で重要な情報である。また、遺伝的多様性の空間変異は現在の生息好適地や過去の分布拡大といった複数の要因を反映していることが予想される。そこで今回は、トウキョウサンショウウオにおいて観察された遺伝的多様性の空間変異がどのような要因によって規定されているかについて、主に気候・地形要因を用いた生態ニッチモデル(ENM)により解析を行った。遺伝的多様性の空間変異を説明する要因としては先行研究から、現在の生息好適度、過去の分布拡大(縮小)、人為的撹乱を想定した。まずENMの一手法であるMaxentを用いてトウキョウサンショウウオの分布全域における現在の生息好適度(HSI)を推定した。続いて先のモデルを完新世中期(6,000年前)の気候情報に投影することで、過去のHSIを推定した。最後に国土数値情報の建物用地割合を人為的撹乱の指標とし、これら3変数を用いた一般化線形モデル(GLM)を構築することで、遺伝的多様性に影響を与える要因を推定した。その結果、現在のHSIが遺伝的多様性の空間変異を最もよく説明することがわかった。このことから、分布周縁部での生息不適性の増大が遺伝的多様性を減少させている可能性が示された。また、HSIが低い地域の集団では、集団サイズや孵化率が低い傾向があったことから、生息不適性の増大とそれに伴う遺伝的多様性の喪失や適応度の減少が本種の分布を制限する重要な要因の一つであることが示唆された。


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