| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-C-126  (Poster presentation)

相模川水系におけるカワアナゴ Eleotris oxycephala の食性と集団構造

*山川宇宙(筑波大学下田臨海実験センター), Faulks, Leanne(筑波大学菅平高原実験センター), 今井亮介(筑波大学菅平高原実験センター), 陶山佳久(東北大学大学院農学研究科), 加納光樹(茨城大学広域水圏センター), 津田吉晃(筑波大学菅平高原実験センター), 今孝悦(筑波大学下田臨海実験センター)

 地球温暖化による海流変動や、沿岸域や河川の水質汚濁、護岸工事、さらには外来種の侵入など全球から地域スケールまで様々な地理的スケールで水圏生態系の改変が進行しており、その保全生態学的な対策が必要とされている。ハゼ亜目カワアナゴ科の両側回遊魚であるカワアナゴEleotris oxycephalaはその主な生息場所である感潮域環境の人為的改変により、近年個体数が減少しており、多くの県でレッドデータ掲載種となっている。一方で、保全を考慮する上で基礎情報となる本種の生態に関する知見は乏しい。そこで本研究では地域スケールでのカワアナゴの保全を目的に、神奈川県相模川水系を対象にしてカワアナゴの食性および遺伝構造を調べた。
 相模川水系の2水域における各個体の消化管内からは、主にユスリカ科幼虫やミズムシ、エビ類、魚類などが認められ、成長するにつれて、魚類をより捕食するようになる傾向がみられた。MIG-seq (Suyama and Matsuki 2016) により得られた1417 SNP遺伝子座を用いて3水域間91個体の遺伝構造を調べた結果、水域間の遺伝的分化はほとんどなかったが、水系全体でみると遺伝的に異なる2系統およびそれら系統間の雑種個体があることがわかった。これらのことから本種は両側回遊を行うため、複数系統が同所的分布し、それらの系統間での雑種形成が進んでいることが示唆された。また91個体の家系解析から半兄弟関係にある個体が複数検出されたことから、近縁な個体間で同様な両側回遊パターンをしていることも示唆された。さらに水域間で成魚、幼魚それぞれの食性に有意な差異がみられたが、中立な遺伝的変異には明確な集団分化はみられなかったことから、食性にみられた水域間の差異は餌環境の相違に起因すると考えられ、本種は餌環境に対応して柔軟に食性を変化させることがわかった。


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