| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-D-145  (Poster presentation)

人口減少する農村におけるため池の水生植物相の将来:社会的条件の空間異質性と種特性を考慮したシミュレーション

*外山史也, 赤坂宗光(東京農工大学)

土地の放棄によって世界各地の伝統的な管理によって維持されてきた生態系で生物多様性が低下している。しかし、人口減少、高齢化が著しい国内においてその影響は顕著であるものの、世界的には、放棄は未だ際立った脅威として認識されていない。このため、保全ための意思決定を左右する指標である絶滅リスクの評価に大きな影響を与える要因の理解が不足している。これまで放棄に対する脆弱性は種間で異なることが明らかにされてきたものの、人口や管理体制といった社会条件の違いに起因する暴露の空間的な偏りは考慮されてこなかった。そこで本研究は兵庫県淡路島のため池に注目し、種間の脆弱性の違いと社会条件の空間異質性の考慮の有無が種の絶滅リスクの評価にどのような影響を及ぼすかを検証した。野外調査のデータをもとに予測モデルを構築し、社会条件の空間異質性の考慮の有無と種間の脆弱性の違いの考慮の有無の2×2の組み合わせによって4つのシナリオを設定し、水生植物64種の絶滅の推移をシミュレーションした。結果、種間の脆弱性の違いより社会条件の空間異質性の考慮の欠如が各種の絶滅リスクに大きく影響することが示された。また、社会条件の空間異質性の無視によって水生植物全体の絶滅リスクは約10%過大評価されるものの、レッドリスト掲載種と浮遊植物の絶滅リスクはそれぞれ約5%過小評価された。さらに、暴露の空間的な偏りが存在することで特に出現頻度が低い種の絶滅リスクが過大評価された。これらの結果から特に放棄に対する絶滅リスクの評価に暴露の空間的な偏りの考慮が欠かせないこと、および個体数や出現頻度、分布域の広さのみに注目した種の絶滅リスクの評価が、誤った結論を導く可能性が高いことが示唆された。


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