| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-E-171  (Poster presentation)

滋賀県における環境保全型農業直接支払交付金の空間偏在と生態学的影響

*京井尋佑(滋賀大学経済学部), 田中勝也(滋賀大学環境総合研究センター 教授)

 本研究の目的は、環境保全型農業の取り組みの空間分布を明らかにするとともに、その規定要因を定量的に分析することである。そのためにまず、現行の環境保全型農業の普及政策である「環境保全型農業直接支払交付金」について、滋賀県における採択状況についての集落マップを作成した。この採択状況に関する空間情報をもとに、環境保全型農業に該当する主要な取り組み(有機農業、カバークロップ、緩効性肥料、炭の投入、IPM、希少生物等保全水田)の採択メカニズムについて、それぞれ空間離散型選択モデルにより分析した。
 分析により得られた主要な結果は以下の3点である。第1に、滋賀県における環境保全型農業の取り組みは、空間的に大きく偏在しており、集落間における取り組みの空間自己相関も正で有意な結果となった。
 第2に、集落レベルでみた環境保全型農業の採択メカニズムでは、営農状況(稲作比率、大規模農家比率、営農者の年齢多様性など)、ソーシャル・キャピタル(農事に関する寄合回数)、気象条件(豪雪ダミー)、地理的条件(都市ダミー、豪雪ダミー)、琵琶湖までの距離などが統計的に有意であることが示された。
 第3に、上述の採択メカニズムに影響する要因や、空間自己相関の程度は、取り組み内容により大きく異なることが示された。
 これらの結果から、環境保全型農業の普及を通じて生態系保全を進めていく上では、政策効果の高い規定要因を取り組みごとに考慮することが必要である。とくに、大規模集約による農業の効率化は、環境保全型農業の普及に資する可能性が高い。また、環境保全型農業の普及では集落間の空間伝播(スピルオーバー)の存在が大きく、この点を考慮した制度設計が必要である。最後に、農業は担い手の高齢化や過疎化などにより、上述の規定要因の多くが劣化傾向といえる。農業を立て直し、農村を振興していくことは、地域活性化だけでなく農村生態系保全に資するものといえる。


日本生態学会