| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-E-174  (Poster presentation)

新聞記事に見るホタルに対する動物観の変遷

*近藤郁仁, 倉本宣(明大・農)

ホタル(Lampyridae/ホタル科)は里山の指標種としてや夏の風物詩として、さらには数多くの歌や俳句、文学作品などにも登場し古くから人々に親しまれてきた。このような日本人のホタルに対する思いや意識は世界でも稀であり、日本固有の文化といえる。
しかし昨今、人間活動などによる様々な原因によりホタルは減少の一途を辿っており、現在では全国各地で保全活動が行われている。動物観とは人が動物に対してどのような意識や態度を持っているかのことであり、ホタルの保全保護に関しても、動物観を抜きにしては論じることはできない。そこで本研究では、新聞記事からホタルに対する認識や動物観の変遷を明らかにし、新聞記事が人の動物観に与える影響を示した。これらを通して今後保全対象となる生物に対する考え方やあり方を検討する際の役立つ知見を得ることを目的とした。

新聞のデータベースを用いて、種別件数が顕著に多かったゲンジボタルについて記事内容の変遷を調査した。調査対象期間はデータベースが提供している1874年から2016年11月までとした。ゲンジボタルについて取り上げている記事の内容を一つ一つ吟味した上で、記事内容の変遷をまとめた。

記事内容からは時代の流れとともに、社会の法制度などにより自然への価値観も変わり、それに伴いホタルに対する動物観も変化してきたことが示唆された。また、ホタルに関する記事は内容も様々であるが、新聞記事にとりあげられると、その活動が全て良いことのようにとられうる。今回、安易な養殖や放流に警鐘を鳴らす報道も見受けられたが、そのような記事の割合は低く、メディアの情報だけではこのような考え方は社会に浸透しにくいと思われる。今後、生き物の保全を論じる際は、メディアからの情報だけではなく実際の現場での経験や書籍などの最新の知識から多角的に自身の動物観を見直し、検討する必要があると考えられる。


日本生態学会