| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-G-223  (Poster presentation)

奈良県春日山原始林における植生タイプ間での鳥類の種組成と種多様性の違い

*岡本真帆(大阪市立大学・理), 大矢樹(大阪市立大学・院理), 武田紗季(大阪市立大学・理), 伊東明(大阪市立大学・院理), 名波哲(大阪市立大学・院理)

 森林に生息する鳥類は、種ごとに食物や営巣場所として利用する樹種や生息環境がある程度決まっており、その分布は植生タイプに規定されると考えられる。また、森林樹木にとって鳥類は、植食性昆虫の捕食、送粉、種子散布などを通じて樹木個体の生存や繁殖成功に大きく寄与する。したがって、分布する鳥類の個体数や種組成は、森林の更新動態を左右する要因となりうる。
 本研究では、照葉樹林、二次林、人工林といった多様な植生によって構成されている奈良県春日山において、植生タイプと鳥類の分布の関係やその季節変動を明らかにすることを目的とした。この目的のために、春日山の約150haの範囲内に18個のICレコーダーを設置し、得られた音声録音の記録から鳥類の種同定を行い、鳥類相の把握を試みた。2016年4月~2017年1月にかけて、1ケ月あたり4日間、1日あたり日の出前後の6分間の録音記録を聴取した結果、63種の鳥類が同定された。出現する鳥類の種数とShannon-Wienerの多様度指数は、4月~7月にかけて高かった。8月~10月には両値はともに減少したが、11月~1月には再び増加した。種多様度の植生タイプ間での差の大きさは、季節によって異なった。ただし、種多様度が類似する季節においても、系統的多様度は植生タイプ間で異なることが示唆された。植生間で種組成の重複度を見たところ、人工林ではクロツグミやキバシリが記録され、他の植生タイプとは異なる種組成をもつことが示された。今回の調査結果から、留鳥のみならず、夏鳥、冬鳥といった渡り鳥が季節に応じて春日山を利用していること、鳥類の分布と植生タイプの間に関係があることが明らかになった。また、さまざまなタイプの植生の存在が春日山全体での鳥類の種多様性の維持に貢献していることが示唆された。


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