| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-G-225  (Poster presentation)

セルロース分解能をもつカニ類が駆動するマングローブ域の食物連鎖

*川井田俊(東京大学大学院 農学生命科学研究科), 河野裕美(東海大学 沖縄地域研究センター), 佐野光彦(東京大学大学院 農学生命科学研究科)

マングローブ林とその周辺水域(以下,マングローブ域)において,ベントスは,一次消費者として食物連鎖を駆動する重要な役割を果たす。マングローブ域の土壌の有機物源は,主にマングローブに由来するデトリタス(以下,植物デトリタス)であるが,これらはベントスの餌にはなっていないと考えられてきた。この理由の一つは,ベントスが,植物デトリタスの主成分である難分解性のセルロースを分解・利用するための酵素をもたないためであると言われていた。しかし,これまでの演者らの研究により,温帯の塩性湿地のカニ類がセルロース分解酵素をもち,植物デトリタスを餌として利用していることが明らかとなった。このことから,マングローブ域のカニ類も同様に,植物デトリタスを分解・利用していることが予想される。さらに,それらのカニ類が,高次消費者である魚類の餌となることで,マングローブ域の食物連鎖が維持されている可能性がある。そこで本研究では,マングローブ域において1) 植物デトリタスを分解・利用するカニ類(以下,植物デトリタス食のカニ類)がいること, 2) そのようなカニ類が魚類に捕食されていることの2点を明らかにすることで,マングローブ域における食物連鎖の主要なメカニズムを解明することを目的とした。
カニ類のセルロース分解酵素活性と炭素・窒素安定同位体比分析の結果,林内に優占するフタバカクガニは高い酵素活性をもち,植物デトリタスを餌として利用している可能性が高いことがわかった。また,魚類の安定同位体比と胃内容物分析の結果,調査地での優占魚であるフエダイ類は,フタバカクガニを主要な餌として利用していることがわかった。一方,酵素活性が低いカニ類は主に微細藻類を利用する傾向があり,魚類にはほとんど利用されていなかった。このことから,マングローブ域の食物連鎖が,植物デトリタス食のカニ類によって駆動されていることが示唆された。


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