| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-G-226  (Poster presentation)

ミジンコのクローン分布の広さは競争能力を反映しているのか?

*丸岡奈津美(東北大学), 占部城太郎(東北大学大学院)

 日本の湖沼には多くのミジンコ種が生息しているが、その分布域や分布範囲の広さは種により異なっている。例えば、近年、北米からの外来種と判明した絶対単為生殖型のDaphnia pulexは日本列島の平地湖沼や、ため池に広く分布している。日本に侵入したD. pulexには4つの遺伝子型(クローン)があるが、このうち全国に分布しているのはJPN1遺伝子型で、JPN2型は東日本に、JPN3型、JPN34型は西日本の一部のエリアに分布している。私達の調査によれば、日本にはD. pulexと誤同定される種も分布している。本研究では、この種を便宜的にDaphnia sp.と記すが、この種は形態記述による記録や近年の遺伝解析の結果から、東アジアに分布域をもち、100年前には日本の平地湖沼に普通に分布していたと考えられる。しかし、現在ではDaphnia sp. の出現はきわめて稀であり、D. pulexに競争的に排除されている可能性がある。
 そこで本研究では、(1) D. pulex 遺伝子型の分布範囲の違いは種内での餌をめぐる競争能力の違いによる、(2) Daphnia sp.の出現が稀なのはD. pulexよりも種間競争で劣位なためであるという仮説を立て、検証実験を行った。実験にあたっては、餌として緑藻を用い、各遺伝子型・種を餌濃度0.05〜1.00mgC/Lの範囲で5日間飼育し、体成長速度と生残率を調べ、成長に必要な閾値餌密度と50%生残餌密度を算出し、各遺伝子型・種の競争能力を評価した。
 実験の結果、日本に広く分布しているD. pulex JPN1型は、より低い餌密度でも生残・成長することが出来るが、遺伝子型間では必ずしも競争能力と分布の広がりとには明瞭な関係はないこと、しかしDaphnia sp. はD. pulex各遺伝子型に比べると閾値餌密度も50%生残餌密度も高いことがわかった。これらの結果から、仮説の妥当性を考察する。


日本生態学会