| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-H-265  (Poster presentation)

有蹄類の低密度化後に定着した植物の形質:洞爺湖中島の事例

*田垣知寿子, 赤坂宗光(東京農工大学)

はじめに 有蹄類の高密度化に伴う植物相の変化は世界で深刻な問題となっている。有蹄類の採食圧の変化が植物群集に与える影響を予測するには、種組成の変化を規定するプロセスの解明が必要である。採食圧の変化に対する植物各種の応答を規定するプロセスは関連する植物の形質に基づき推定されてきたが、連続した時系列の中での採食圧の著しい増加と減少が及ぼす影響の理解や、大きな空間スケールで作用するプロセスの考慮は充分ではない。本研究では、景観スケールにおける有蹄類の採食圧の増加に対する植物の存続、およびその後の採食圧の減少に対する再加入に相関する植物の形質の把握を目的とした。

方法 調査地を北海道洞爺湖中島とし、エゾシカの高密度化後の植物の存続、および低密度化後の植物の再加入のしやすさの各々に関連する植物種の形質について、過去の調査時に確認された維管束植物459種を対象とし、回帰木により分析した。

結果 エゾシカの高密度化後の植物の存続のしやすさは最大高11m以上の種で最も高く、最大高11m未満の種の中では木本植物が草本植物より高く、草本植物の中では最大高21cm未満の種が21cm以上の種よりも高かった。エゾシカの低密度化後の植物の再加入のしやすさは、木本植物のほうが草本植物よりも高く、木本植物と草本植物の両方で散布体の重さが小さい種が高かった。

考察 有蹄類の高密度化後の植物の存続においては被食の回避のプロセスの影響が強い一方で、低密度化後の植物の再加入においては散布体の到達や土中での残存のプロセスの影響が強くなることが示唆された。採食圧の増加後の植物の存続とその後の採食圧低下後の植物の再加入とでは、背景にあるプロセスの相対的な重要性が異なる場合がある。


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