| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-J-297  (Poster presentation)

高カルシウム条件に対するミミズの局所適応: その検証と窒素循環における重要性

*河上智也(北大・院・環境), 礒田玲華(北大・院・農), 橋床泰之(北大・院・農), 小林真(北大・FSC)

森林において、土壌窒素の無機化は生物活動に影響を与える重要なプロセスの一つであり、分解者によって制限される。特に、大型土壌動物であるミミズの摂食活動やそれに伴う糞団粒の生成は、土壌中の窒素無機化に大きく影響する。北海道北部では、土壌食のツリミミズ科種が優占しており、過去の知見では、ツリミミズ科種はカルシウムが豊富な餌を多く摂食することが知られている。一方、ミミズは小規模な範囲で遺伝的に分化したり、育った土地において順化することが知られている。そこで我々は、カルシウムが豊富な土壌では、土壌食のツリミミズ科種の摂食量は多く、またその量はカルシウムが豊富な環境で育ったミミズでより顕著になると考えた。また、カルシウム含有量の違いによるツリミミズ科種の摂食量の変化は、糞団粒生成量を介して、土壌窒素無機化量に影響を及ぼすと考えた。これらの予想を検証するため、北海道北部に優占する土壌食のツリミミズ科種であるEisenia japonicaを、カルシウム含有量の異なる2つの土壌(堆積岩土壌、石灰岩土壌)から採取し、3つの土壌(堆積岩土壌、カルシウムを添加した堆積岩土壌、石灰岩土壌)で育てた際の糞団粒生成量と窒素無機化量を調べた。E. japonicaの土壌摂食量は、土壌のカルシウム含有量が高くとも、必ずしも増加しなかった。この結果は、ツリミミズ科種の土壌摂食量の増加には、カルシウム含有量以外にも他の土壌条件(C:Nなど)が好適である必要があることを示唆する。また、カルシウム添加が糞団粒生成量へ及ぼす影響は、ミミズの産地によって異なった。予想したように、これらの糞団粒生成量の違いは、土壌の窒素無機化量(とりわけ硝化量)に対応していた。これらの結果から、ツリミミズ科種が生育する環境に順化や適応することは、不均質なカルシウム環境における土壌動物と土壌窒素無機化との関係を理解する上で重要であることを示唆している。


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