| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-J-298  (Poster presentation)

異なる森林タイプにおける林内雨のDOC分子群の比較

*三浦郁実(兵庫県立大学)

 溶存有機物(DOM)は、複数の分子種からなる有機化合物の集合体である。林内雨には大気沈着物や樹木からの溶出物など、様々な有機物や無機物が溶け込む。しかしこれまで林内雨の化学性に関する研究は、無機物質に関するものが中心だった。林内雨によって林床に達したDOMは、土壌へ保持され、微生物の分解活動のエネルギー源となるなど土壌における物理的・生物的プロセスを制御する。しかし有機物に関しては、TOCやTONなど限定的な研究しか行われていない。近年、質量分析により異なる森林における土壌のDOM分子種の違いが明らかとなった。そこで本研究では、広葉樹林と針葉樹林の林内雨に含まれるDOMの構成分子種の違いを質量分析によって解明することを目的とした。
  本研究では、兵庫県内の3つの試験地において、降雨(RF)、広葉樹林(BT)・針葉樹林の林内雨(CT)を採水した。DOMの分析には、超高分解能の質量分析法であるFT-ICR-MSを用いた。ここで得たスペクトルデータからDOM分子の種数と各分子種の予測分子式を得た。また予想分子式の炭素、水素、酸素の数値を用いて各サンプルに含まれるDOMの分子種を7つの機能群に分類するとともに、生分解性が高い分子群を求めた。
  DOM分子数は、降雨は平均669種となり、林内雨に比べて有意に多かったが、BTは平均1989種、CTは平均2434種となり、両者の間には有意な差はなかった。またDOMのいずれの機能群でもBT、CTの種数に有意な差はみられなかった。しかし、個々の分子に着目すると、BTにしか含まれない53個の分子やCTにしか含まれない151個の分子が発見できた。また生分解性が高いDOM分子は、降雨より林内雨に多く含まれ、その平均値はBTよりCTが高かった。以上の結果から、林内雨のDOM成分は広葉樹林と針葉樹林で大きな違いはないものの、個々の分子を見ることでそれぞれの成分特性を明らかにできる可能性が示唆された。


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