| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-J-308  (Poster presentation)

スギとコナラの樹皮におけるイオン浸透

*岩尾一輝(名古屋大学 農学部), 竹中千里(名古屋大学大学院 生命農学研究科)

 福島第一原発事故後に展開した新葉に放射性セシウムが検出され、その吸収メカニズムとして樹体表面からの吸収が示唆された。その後、スギとコナラの樹皮への安定セシウム溶液の塗布実験により、樹皮表面からの吸収が確認されている。一方、樹幹流のpHが樹種によって固有の値になることが知られており、そのメカニズムとして樹皮表面におけるH⁺と陽イオンのイオン交換反応の関与が実験的に証明されている。しかし、上記のような樹皮におけるイオンの浸透性や交換反応については不明な点が多い。本研究では、樹皮吸収とイオン交換反応の関係を解明し、樹皮におけるイオン動態のメカニズムを明らかにすることを目的とした。
 名古屋大学稲武フィールドで伐採したスギとコナラから作成した樹皮片を用いて、イオン輸送実験を行った。大小の容器を用意し、小容器にあけた直径2 cmの穴に樹皮片を貼り付けた。大容器に塩類溶液を入れ、そこに蒸留水を入れた小容器を浮かべ、樹皮片を介して塩類溶液と蒸留水を接触させ、溶液中のイオン濃度変化を調べた。樹皮片としては、スギの場合「外樹皮+内樹皮」、「外樹皮+内樹皮+木部」、「内樹皮+木部」を、コナラの場合は「外樹皮+内樹皮」を使用した。塩類溶液として、NaCl(0.1M)、KCl(0.1M)、CaCl₂(0.1M)とコントロールとして蒸留水を使用した。
実験前に塩類溶液と蒸留水のpHを測定し、実験開始から3日後、塩類溶液についてはpHを、蒸留水については、pHと陽イオン、およびCl濃度測定した。
 結果として、スギの塩類溶液側でpHの低下が確認された。そのH⁺増加量は「外樹皮+内樹皮」>「外樹皮+内樹皮+木部」>「内樹皮+木部」であり、(陽イオン増加量の合計)>(H⁺増加量)であったことから、樹皮を通してのイオン輸送の途中で、一部のイオンが外樹皮においてイオン交換を起こしていると考えられた。


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