| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-K-331  (Poster presentation)

産卵中のナミアゲハによる葉の選択と視覚情報の関係

*長屋ひろみ, Finlay Stewart, 蟻川謙太郎, 木下充代(総合研究大学院大学)

鱗翅目昆虫は、幼虫の食草を見分けるために匂いや味などの化学情報を使う。一方、求蜜行動中のナミアゲハ(Papilio xuthus、以後アゲハ)は、優れた色覚や偏光を使って花を見つける。このことから、食草の中から産卵に適した葉をアゲハが選ぶためにも視覚情報は重要であると考え、本当にアゲハが特定の葉を選んで卵を産むのか、選んでいるならばどの視覚情報を使うのかを調べた。
 私は、まずカゴの中にみかんの木を一本入れ、交尾済みのメスのアゲハを一匹放ち、その産卵行動を観察した。すると、どの個体も同じ葉に多くの卵を産み付けた。つまり、アゲハは葉を選んでいるのである。食草の匂いが充満した室内で、葉に触れる前に味や匂いの違いによって葉を選ぶのは難しい。よって葉を選ぶのには視覚情報を使っている可能性が高い。次に、葉の選択に重要な視覚情報を知るために、多くの卵が産み付けられた葉とそうでない葉をそれぞれ5枚ずつ選び、葉の視覚的特徴と産み付けられた卵の数との相関を調べた。調べた葉の特徴は、地面に対する傾き・湾曲度・丸さ・色・明るさ・相対的に含まれる偏光の量(偏光度)・偏光振動面の角度である。その結果、産みつけられた卵の数が多い葉ほど、明るく緑色で、反射光の偏光量は小さく、より平らな葉だった。以上の結果は、アゲハが複数の視覚情報を組み合わせて葉を選んだことを示しているのだろう。
 私は、アゲハは適度に育った若い葉を選んでいると考えている。なぜならば若い葉を我々が見ると、あまり表面が光っていない(偏光度が小さい)、色は若いほど明るい緑に見えるからである。さらに、葉の成長に合わせて、表面のワックス量と、葉の内部に蓄積されていく葉緑体などがどのように変わるのかを調べる必要があるだろう。


日本生態学会