| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-O-425  (Poster presentation)

マングース防除事業に対する市民認識:議論と情報提供による影響

*豆野皓太(北海道大学大学院農学院), 久保雄広(国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター), 庄子康(北海道大学大学院農学研究院), 柘植隆宏(甲南大学経済学部), 栗山浩一(京都大学大学院農学研究科)

外来種の根絶には市民の理解や協力を欠かすことはできない。しかし、根絶に対して特に倫理的な観点から否定的な市民も存在している。例えば、沖縄県やんばる地域では、人為的に放獣されたフイリマングースが、ヤンバルクイナをはじめとする絶滅に瀕する固有種を捕食しており、その防除が急がれている。しかし、このような状況においてもフイリマングースの根絶に対して否定的な人々が存在する。本研究では、マングース根絶事業に関する情報提供や議論で、防除事業に対する市民の理解や協力を促すことができるのか、グループミーティング調査を用いて明らかにした。
本研究では2014年12月に専門の調査会社のモニターとなっている首都圏の一般市民35名に対象にグループミーティング調査を実施した。議論の対象はやんばる地域におけるフイリマングースの根絶事業である。
分析の結果、情報提供によって、マングースの根絶事業に対して賛成する人数が統計的有意に増加した。マングースの根絶事業に否定的な理由は、情報提供や議論によって、倫理的な理由や生態学的な理由の影響は小さくなり、根絶の実現可能性や費用負担の要因の影響が相対的に大きくなった。一方、マングース根絶事業に対する支払意志額については、情報提供や議論による変化は見られなかった。
情報提供や議論によって人々の理解は進み、倫理的な理由に基づく反対意見は減少すると考えられる。一方、根絶の実現可能性や費用負担という点について人々の意見は変化しておらず、また賛成すると回答した人数は増えたものの、根絶事業に対する評価(支払意志額として計測)が変化していないことから、賛成意見が大幅に増えたとも言えない。適切な情報提供や議論により、直面している倫理的な観点から否定的意見は解消できる可能性があるが、それによって根絶事業自体の評価が大きく高まり、根絶に対する理解や協力が大幅に進むとは考えにくいかもしれない。


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