| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-P-435  (Poster presentation)

ウラジロエノキ稚樹の乾燥枯死の生理メカニズム

*甲野裕理(京大生態研), 才木真太朗(京大生態研), 木村芙久(日大生物資源), 丸山温(日大生物資源), 吉村謙一(京大農), 檀浦正子(京大地球環境), 矢崎健一(森林総研), 相川真一(首都大), 石田厚(京大生態研)

近年、温暖化等の影響により世界各地の森林で樹木の乾燥枯死が報告される。小笠原諸島でもここ100年間、乾燥傾向にあると報告されており、樹木の乾燥枯死の生理機構の解明が急がれる。この機構には、脱水ストレスによって通水系の張力が増加し、それに伴う道管の水切れによる通水阻害で枯死に至る「通水欠損仮説」と、気孔閉鎖に伴う光合成の低下が糖の生産量の減少を招き、結果として個体の代謝が低下し枯死に至る「糖欠乏仮説」の二つが提唱されている。そこで本研究では、乾燥によるダメージを受け枯死に向かう稚樹の生理特性の変化を調べることで、二つの仮説の検証を行った。供試木として在来の先駆性樹種であり小笠原諸島兄島内に同所的に生育しているウラジロエノキの2年目の稚樹を用いた。個体の乾燥によるダメージの指標としてHuber value(HV、幹地際部の辺材面積/個体の総葉面積)を用い、各生理特性との関係を評価した。その結果、1年間の生存率および成長速度にそれぞれHVと負の相関がみられた。また、HVの増加に伴って気孔が閉鎖し、光合成も低下していた。更にHVの増加に対し、根から葉にかけての個体全体の通水コンダクタンスが低下していた。一方、HVの変化に対して枝の通水欠損割合(PLC)は低下していなかった。このことから地際から根系にかけての通水部位が乾燥ストレスの影響をより受けやすいことが示唆された。また、幹地際部の木部の糖濃度は各生理特性の変化を受けて推移しており、13CO2ガスを用いたパルスラベリングによる篩部輸送の測定では乾燥枯死がより進んでいる個体で糖輸送量が低下していた。この結果は、乾燥枯死の生理機構に炭素のシンクソースのバランスが重要であることを示唆している。本研究の結果より、従来の二つの仮説を包括しつつ炭素のシンクソースバランスを考慮した、稚樹における乾燥枯死の新しい生理機構のモデルが提唱された。


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