| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-Q-444  (Poster presentation)

葉の最大光合成速度と葉群の構造

*佐々木駿, 舘野正樹(東大院・理・日光植物園)

植物の地上部は光エネルギーを獲得するために最適な形態をとっていると考えられるが、植物の葉群構造には一通りではない様々な形態が観察される。また、葉の生理的特性も様々で、個葉の最大光合成速度も種によって異なる。葉群形態と葉の生理的特性が群落の光合成生産量に与える影響を調べるため、葉群構造を決定する諸性質のうち、葉の最大光合成速度と葉の傾斜角に注目した葉群モデルを作成した。より正確に群落生産量を推定するために、野外のオープンスペースにおいて直達光と散乱光を分離して水平面受光量を長期間にわたって1分間隔で計測し、実測した光データをもとに葉の最大光合成速度および傾斜角を変化させたときの葉群モデル内の光分布を求めた。
葉群モデルのシミュレーション結果から、7・8月の2ヶ月間の土地面積あたりの群落生産量を最大化させるには、葉の最大光合成速度が高い(Amax~30 µmol CO2 m-2 s-1)ときは葉の傾斜角は水平に近い水平葉型の群落(葉面積指数LAI=1.2)、葉の最大光合成速度が低い(Amax~15 µmol m-2 s-1)ときは葉の傾斜角は鉛直に近い直立葉型の群落(LAI>2)を形成することが必要だと明らかにされた。また、曇天時の暗い環境(南中時500 µmol photon m-2 s-1)では、最大光合成速度の低い水平葉型群落でないと収支を正にできなかった。さらに、異なる最大光合成速度の葉群生産量を比較すると、Amax=30に対してAmax=15の葉群は最大光合成速度が半減しているものの、群落生産量は15%しか減少しないという結果が得られた。
このモデルの結果を検証するため、直立葉群落を形成するイネ(Oryza sativa 品種コシヒカリ)を用いて実験をおこなった。高窒素の条件と低窒素条件の水田でのイネ群落の生産速度を比較したところ、高窒素条件と低窒素条件では葉の最大光合成速度が異なるにもかかわらず、群落生産速度に差異は認められなかった。
葉の最大光合成速度の低い植物も直立葉型の葉群構造をとることで葉群の生産量を高くしていることが示唆された。


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