| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-Q-450  (Poster presentation)

ナラ枯れ罹患木の生残機構 ―生残木と枯死木の樹液流特性比較―

*山本遼平(京大院・地球環境), 檀浦正子(京大院・地球環境), 小南裕志(森林総研関西), 衣浦晴生(森林総研関西), 吉村謙一(京大院・農)

近年、日本各地の二次林でナラ枯れによる集団枯死が発生し大きな問題となっている。ナラ枯れは、カシノナガキクイムシ(Platypus quercivorus)が伝搬する病原菌(Raffaelea quercivora)の影響で通水阻害が引き起こされる樹病である。カシノナガキクイムシによる大量穿孔(MA:マスアタック)によって広範囲に通水阻害部が形成され枯死に至ると考えられているが、MA被害個体の中にも生残するものが存在する。ナラ枯れの通水阻害を評価した例では枯死木や破壊的な手法が用いられ、調査時点における一時的な評価しかなされていない。しかし罹患木の生残機構の解明には、ナラ枯れ罹患前後を通じた通水阻害の進行及び回復の経過を、連続的に調査する必要がある。そこで本研究は、樹液流計測によりナラ枯れ罹患木の通水阻害を連続的に評価し、その生残機構を考察することを目的とする。
本研究は京都南部の山城水文試験地に生育するナラ枯れ罹患コナラ(Quercus serrata)7個体を用い、樹液流計測にはHeat ratio method(HRM)を適用した。また、一部個体には円周6方向からの多点樹液流計測を実施した。MA被害前から樹液流計測を行ったところ、一部個体ではMA被害後数日以内に樹液流の急激な低下が見られた。樹液流が急激に低下した個体の中には、翌年の春に生残が確認された個体と枯死が確認された個体が存在した。多点計測を実施した個体では、6方向のうち1方向のみ樹液流が存在していただけであったが、翌年の春に生残が確認された。また、MAの翌年に生残が確認された個体では、夜間樹液流が存在していたものがあり、総樹液流に占める夜間樹液流はMA被害当年で2割を超えていた。これらの結果から、ナラ枯れ罹患木はMA被害後に通水阻害は急速に進むものの一部通水部が残っていれば生残できることが分かり、また夜間に何らかの水利用を行うことで部分的な通水阻害による乾燥ストレスを緩和している可能性が示唆された。


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