| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-R-462  (Poster presentation)

吸水で始まる種子~実生の個体呼吸の急速な変化

*芳賀由晃, 森茂太(山形大学)

休眠種子は長期間にわたり代謝や細胞分裂を停止させることができる。これは生育に適さない劣悪な環境を回避するためであり、その後種子は吸水によって休眠打破を行う。吸水により代謝を開始した種子は速やかに発根し、定着して葉を展開する。これらの成長ステージは、定着にむけて種子を実生へとつなぐ種子貯蔵物質に依存した特異的な成長ステージと考えた。しかし、実生個体群動態の研究は多いが、個体生理的な研究は非常に少ない。そこで本研究では種子から実生までの個体呼吸測定を行い、外部から炭素を取り入れる従来の樹木の個体呼吸データ(Mori et al. 2010)と比較、評価をすることによってその特性を明らかにすることを目的とした。
本研究では、種子サイズの異なるニセアカシア、ネムノキ、フジの3種を材料に用いた。これらの個体呼吸を1)吸水した発根前の種子、2)発根した開葉前の実生、3)開葉後の実生の各成長段階で実測した。吸水種子から実生までの生重量幅はニセアカシアで25~203mg(33個体)、ネムノキで69~301mg(28個体)、フジで683~9680mg(52個体)であった。
測定された吸水種子から実生への呼吸の変化をみると、3種全てで吸水を開始した直後から個体呼吸速度が急激に上昇し、1)~3)と成長段階が進むにつれて個体呼吸速度は高くなる傾向が見られた。個体重量と個体呼吸速度の関係を両対数軸上の単純ベキ関数で近似した結果、得られた傾きは3種それぞれで1.5~2.9と従来の様々な研究に比べて明確に高い値を示した。吸水により呼吸が急速に開始されたことを考え、含水率と個体呼吸速度との関係をフジについて検討した。その結果、フジでは含水率と個体呼吸速度の間には高い相関がみられた。
以上のように、種子から実生にかけての成長では、急速な吸水を行うことで呼吸速度を高め、さらに種子貯蔵炭素に依存した活発な呼吸を行うことで急速な成長を実現していると考えられる。


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