| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-A-008  (Poster presentation)

琉球列島におけるシロオビアゲハのmtDNA分子系統解析

加藤絵美(琉球大学農学部), *鶴井香織(琉球大学戦略的研究セ), 佐藤行人(琉球大学戦略的研究セ), 立田晴記(琉球大学農学部), 木村亮介(琉球大学医学部), 辻和希(琉球大学農学部)

シロオビアゲハは雌の一部のみがベイツ型擬態する。琉球列島では、擬態のモデルであるベニモンアゲハ(毒蝶)の個体数を毒蝶の個体数とシロオビアゲハの雌の個体数の和で割ったもの(毒蝶率)が高い島ほど、シロオビアゲハの雌に占める擬態型個体の割合(擬態型率)が高い傾向がある。これは毒蝶率に依存した擬態型への鳥の捕食圧が島間で異なることによると考えられる。しかし、擬態型率は、距離による隔離や祖先形質の影響といった中立的な要因で規定されている可能性もある。本研究では、琉球列島のシロオビアゲハについての集団遺伝学的な解析等を行い、島間の擬態型率の違いが中立的に説明されるかを検討した。琉球列島周辺の9つの島のシロオビアゲハ91個体のmtDNAをPCR増幅し、イルミナ社MiSeqで配列決定した。決定した配列のうち、GC含量に顕著な偏りがなく信頼度の高いデータが得られたチトクロームオキシダーゼ(COI)遺伝子部分配列(1483bp)を解析に用いた。
分子系統解析の結果、シロオビアゲハ集団は大まかに南西部(八重山諸島)、中央部(宮古諸島)、北部(沖縄諸島・奄美諸島)の地理的位置を反映した系統関係を示すものの、南西部で採集された個体の一部は、中央部または北部の個体と一緒にクレードを形成した。また、島間の遺伝的分化は検出されず、さらに、中央部の宮古島と北部の沖縄島で有意に負の Tajima’s D が検出された。これらの結果から、琉球列島のシロオビアゲハでは、南西部から中央部と北部への遺伝子流動が継続的に起きていることが示唆された。加えて、島間の平均遺伝距離(p-distance)と擬態型率の差の間に有意な相関が検出されなかった。以上より、琉球列島の各島のシロオビアゲハの擬態型率は、遺伝的隔離などの中立的要因によって決まってきたのではなく、各島で独立に鳥の捕食圧に適応して変化してきた可能性が考えられる。


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