| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-A-021  (Poster presentation)

交尾前後で拮抗的な選択を受けるナミアゲハの雄の体サイズ

*佐々木那由太(筑波大・生命環境)

性選択は働くタイミングによって交尾前選択と交尾後選択の2種類に分けることができる。ある生物において性選択が進化に与える影響を予測するには、両選択で選ばれる形質の関係性を把握することが重要である。ナミアゲハでは、これまでの研究により、雌が交尾した複数の雄の内最も大きな婚姻贈呈物質を提供した雄の精子のみを選択的に受精に用いることが明らかにされてきた。本研究では本種の交尾前選択を調べるため、まず室内飼育し羽化させた本種の雄を羽化翌日に雌と交尾させた後、様々な日数で解剖し、内部生殖器の状態を調べた。交尾直後の雄の内部生殖器は未交尾雄と比べて明らかに短く軽かったが、交尾後の時間と共に回復することが分かった。雄の体サイズは内部生殖器の重さや長さへ影響を与えていなかった。次に、室内実験の結果を基に、2016年の7月から9月の間につくば市内で捕獲された雄を内部生殖器の状態から最近交尾した雄とそうでない雄に分けた。43頭の雄の内、11頭が明確に最近交尾した個体、10頭が明確に最近交尾していない雄に分けられた。最近交尾した雄とそうでない雄で体サイズと齢を比較したところ、最近交尾した雄はそうでない雄と比べ、齢では差が見られなかったが体サイズが小さかったことが分かった。すなわち、体サイズの小さい雄の交尾成功度が高いと言える。一般に、チョウ類の雄の生産する婚姻贈呈物質の大きさは自身の体サイズに大きく影響される。そのためナミアゲハの交尾後選択では体サイズの大きな雄が有利である可能性が高い。したがって、ナミアゲハにおいて交尾前後の性選択は雄の体サイズに対して真逆の方向に働いていると考えられる。


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