| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-A-026  (Poster presentation)

動物搭載型採血装置を用いた鰭脚類における内分泌学的研究

*鈴木一平(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター), WONG, Marty(東京大学大気海洋研究所), HALL, Ailsa(セントアンドリュース大学), 佐藤克文(東京大学大気海洋研究所), 竹井祥郎(東京大学大気海洋研究所)

 海棲哺乳類は陸上から水中への生活に適応したと考えられているが、その生理機構はまだ解明されていない。重力が浮力によって緩和される水中における血流や血圧の制御、また肺呼吸動物が水中で体内の保有酸素を効率よく使うための調節機能を解明するためには、循環調節機構を制御するホルモンの役割を把握する必要がある。しかし、従来の採血手法では捕獲に伴うストレスによるホルモン分泌の変動が見られ、非ストレス条件下で動物から血液サンプルを採取することが期待されていた。本研究では、新たに開発した動物搭載型の採血装置を用いて、1)捕獲および非捕獲時のストレスホルモン、2)水中と陸上における循環調節ホルモンの分泌動態を比較した。
 飼育下のハイイロアザラシHalichoerus grypusとゼニガタアザラシPhoca vitulinaを用いて実験を行った。ストレスホルモンの比較では、陸上にて捕獲した際と採血装置を用いた際の血液サンプルを用いた。また、採血装置を用いた陸上サンプルと水深2mの実験プールにて採血装置によって得た水中サンプルを用いて、浮力変化に伴うバソプレシン(VP)、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、アンジオテンシンⅡ(AngⅡ)の分泌動態を比較した。
 血漿中のストレスホルモン濃度は、採血装置を用いた非捕獲時の方が、捕獲時よりも有意に低かった。循環調節ホルモンではVPが水中で低下し、ANPは水中で増加する傾向があったが、AngⅡは陸上と水中で変化が見られなかった。一生を水中で過ごす鯨類では、水中と陸上で循環調節ホルモン濃度に変化がないことが確認されているが、本研究より、水陸両用の生活史を持つアザラシでは、循環調節ホルモンの分泌を調節する機能を弱いながらも保持していることが明らかになった。共に海棲哺乳類であるが、生活史の相違により酸素節約のための循環調節機構は鯨類と鰭脚類にて異なると考えられる。


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